135 詠み人知らず、一説に、柿本人麻呂 我が宿の池の藤波咲きにけり山ほととぎすいつか来鳴かむ 題知らず、この歌は、ある人が言うには、柿本人麻呂の歌であるという 136 紀利貞きのとしさだ あはれてふことを数多にやらじとや春に遅れてひとり咲くらむ 卯月に咲いた桜を見て詠んだ歌 137 詠み人知らず 皐月まつ山ほととぎす打ち羽ぶき今も鳴かなむこその古声ふるごゑ 題知らず 138 伊勢 皐月来ば鳴きも古りなむほととぎすまだしきほどの声こゑを聞かばや 題知らず 139 詠み人知らず 皐月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の香ぞする 題知らず 140 詠み人知らず いつのまに皐月来ぬらむあしひきの山ほととぎす今ぞ鳴くなる 題知らず 141 詠み人知らず 今朝来鳴き未だ旅なるほととぎす花橘に宿は借らなむ 題知らず 142 紀友則 音羽山今朝越え来ればほととぎす梢こずゑ遥かに今ぞ鳴くなる 音羽山おとはやまを越えたときにほととぎすが鳴くのを聞いて詠んだ歌 143 素性法師そせいほうし ほととぎす初声はつこゑ聞けばあぢきなく主定まらぬ恋こひせらるはた ほととぎすが始めて鳴いたのと聞いて詠んだ歌 144 素性法師そせいほうし 石上いそのかみ古き都のほととぎす声ばかりこそ昔なりけれ 奈良の石上寺いそのかみでらでほととぎすが鳴くのを詠んだ歌 145 詠み人知らず 夏山に鳴くほととぎす心あらば物思ふ我に声な聞かせそ 題知らず 146 詠み人知らず ほととぎす鳴く声こゑ聞けば別れにしふるさとさへぞ恋こひしかりける 題知らず 147 詠み人知らず ほととぎす汝が鳴く里の数多あればなお疎まれぬ思ふものから 題知らず 148 詠み人知らず 思ひいづる常葉ときはの山のほととぎす唐紅の振り出でてぞなく 題知らず 149 詠み人知らず 声はして涙は見えぬほととぎす我が衣手の浸づを借らなむ 題知らず 150 詠み人知らず あしひきの山ほととぎす折り延へてをりはへて誰か勝ると音ねをのみぞなく 題知らず 151 詠み人知らず 今さらに山へ帰るなかへるなほととぎす声こゑの限りは我が宿に鳴け 題知らず 152 三国町みくにのまち やよや待て山ほととぎす言伝むことづてむ我世の中に住み侘びぬとよ 題知らず 153 紀友則 五月雨に物思ひをればほととぎす夜深く鳴きていづち行くらむ 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 154 紀友則 夜や暗き道や惑へるほととぎす我が宿をしも過ぎがてに鳴く 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 155 大江千里 宿りせし花橘も枯れなくに何などほととぎす声こゑ絶えるらむ 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 156 紀貫之 夏の夜の臥すかとすればほととぎす鳴く一声ひとこゑに明ける東雲 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 157 壬生忠岑みぶのただみね 暮るるかと見れば明けぬる夏の夜を飽かずとや鳴く山ほととぎす 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 158 紀秋峰きのあきみね 夏山に恋しきこひしき人や入りにけむ声振り立てて鳴くほととぎす 寛平の御代、后の宮で行われた歌合せの歌 159 詠み人知らず 去年こぞの夏鳴きふるしてしほととぎすそれかあらぬか声こゑの変はらぬ 題知らず 160 紀貫之 五月雨の空もとどろにほととぎす何を憂しとか夜ただ鳴くらむ ほととぎすが鳴くのを聞いて詠んだ歌 161 凡河内躬恒おほしかふちのみつね ほととぎす声こゑも聞こえずやまびこは他に鳴く音を応へやはせぬ 侍で殿上人どもが酒をいただいていたところ、お召しがあり、ほととぎすを歌を詠めと仰せがあったので詠んだ歌 162 紀貫之 ほととぎす人まつ山に鳴くなれば我うちつけに恋ひまさりけり 山でほととぎすが鳴くのを聞いて詠んだ歌 163 壬生忠岑みぶのただみね 昔べや今も恋しきこひしきほととぎすふるさとにしも鳴きて来つらむ 前に住んでいたところで、ほととぎすが鳴いたことを聞いて詠んだ歌 164 凡河内躬恒おほしかふちのみつね ほととぎす我とはなしに卯の花のうき世の中に鳴き渡るらむ ほととぎすが鳴いたことを聞いて詠んだ歌 165 僧正遍昭そうじゃうへんぜう 蓮はちす葉の濁りに染まぬしまぬ心もてなにかは露を玉とあざむく 蓮の露を見て詠んだ歌 166 清原深養父きよはらのふかやぶ 夏の夜はまだ宵よひながら明けぬるを雲のいづこに月宿るらむ 月が趣深かった夜、暁方に詠んだ歌 167 凡河内躬恒おほしかふちのみつね 塵をだに据ゑじとぞ思ふ咲きしより妹いもと我が寝るぬるとこ夏の花 隣から常夏の花が欲しいと人を遣わせたので、惜しんでこの歌を詠んで遣わした歌 168 凡河内躬恒おほしかふちのみつね 夏と秋と行きかふ空の通ひ路かよひぢは片へ涼しき風や吹くらむ 水無月の晦の日に詠んだ歌